私を離さないで

『私を離さないで』カズオ・イシグロの小説、久しぶりに小説を読みたいと思いふと買った本だった。

 本の裏表紙に書いてある程度の紹介だが。臓器提供の為に産まれた人の話だ。学校の様な所に同じ目的の為に産まれた人だけが集められ育ち、臓器提供をして生を終える。端的に書くとこれだけなのだが、小説ですからその中で様々な人の感情が描かれている。著者はこれから出てくる可能性のある人のクローン技術等から着想を得て書いたのだろうと思っていた。

 自分だったら違う選択をするだろうなと思いながら気がついた事、自分が置かれた状況に対して諦めという同調圧力をかけられながら生きているのは彼らだけでは無い。そして同調圧力に屈した人間は周りの人間に同調圧力をかける。見る度に嫌悪感を感じぜざるを得ない。

 臓器提供というテーマを使い本来人が持つ自由がもうすでに制限されている事を著わしたかったのでは無いかと思った。臓器提供をする為に作り出された人間を認める事、ひいては自分と違う扱いを受ける人間を認める事は人が平等では無い、つまり人の自由を他人が制約する事を許容するという事だ。まあ今も十分制約されているが。社会的には平等では無くとも神の前では平等である、死は平等に訪れるとか言い古されてきた。20世紀は人が王という物を作って以降、最も自由な時代だったのかもしれない。歴史上多くの国で民衆が自由を求めて戦い勝ち得た国もある。自由、平和、平等という民主主義の理念を世界に広め多くの人々が解放されたのも束の間、次に支配者が迫っている。従う事を否応なくさせる状況を作りながら。こんな事を考えさせられた本だった。